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電子契約と本人確認

1 電子契約と本人確認

  1. 電子契約と本人確認について少し解説をしてみます。
  2. 現在の電子契約では、イメージ言えば、メールを使って契約するのと同じです。
  3. ●●@kk.com(の利用者)と、〇〇@kk.JP(の利用者)が契約を成立させたことまでは証明できますが、●●@kk.comが山田花子さんであることは証明されていません(本人確認がありません)。
  4. 本人確認がされていないということはどういうことか、どんなリスクがあるかを説明します。

2 本人確認

 Ⅰ.本人確認とは何か

  1. 例えば口座開設を例にとります。本人確認された口座は、以下の効果を持っています。
    Aさん名義の口座があるということは、Aさんが銀行に認められていること、Aさんに送金すればAさんに支払ったことが確認されます。
  2. 書面で契約する際には、契約書に印鑑証明を付けて、実印を押してもらいます。
    実印は本人が保管しています。したがって、実印が押してあり、印鑑証明が出ていることは、Aさんが契約したことが推察されています。

 Ⅱ.本人確認の方法

  1. 本人確認とは、Aと名乗る人物がAさんであることです。
    契約書の場合には、「〇〇の住所を持つ山田花子」と名乗る人物は、〇〇に住んでいること、名前が山田花子であることです。
    契約書を締結する場合には、身分証を持って来てもらい、身分証の記載を確認します。
  2. 身分証を他人に貸したりはしません。「〇〇の住所を持つ山田花子」の身分証を持つ人物は、「〇〇に住んでいること、名前が山田花子であること」が確認されるわけです。

3 メールと本人確認

  1. 普段、私達はAさんから来たメール(●●@kk.com)のメールをAさんから来たメールだとは疑いません。
  2. しかし、メールには、本人確認機能はありません。
  3. 通常、私達はAさんと直接会ったり電話をしたりして、その一環でメールをやりとりします。
    これらのやりとりによって、「●●@kk.com」がAさんのアドレスだと、何となく信じてデータをやりとりしているのです。
  4. しかし、「●●@kk.comは、山田花子さんである」と思っていたが、全然違う人だったということがありえるのです。

4 セキュリティーと本人確認の違い

  1. セキュリティーがしっかりしていれば、本人確認が大丈夫だという誤解もあります。しかし、セキュリティーと本人確認は別の概念です。
  2. 例えば、パソコンを起動するのに暗証番号や携帯電話の登録、二段階認証等を設定します。携帯電話にショートメールが送られて、その番号を入力しなければ、パソコンを起動できない仕組みです。
  3. これらは、パソコンを登録した人以外の人がそのパソコンを操作できない仕組みであり、セキュリティーの問題です。
  4. 例えば、山田花子と登録してあるパソコンに指紋認証機能が付いているとしても、そのパソコンから来たメールが、本当に「山田花子」という人物から来たかは、全く分かりません。 そもそも、そのパソコンを使っている人物が「山田花子」という名前を偽証している可能性があるからです。

5 裁判と本人確認

 Ⅰ.裁判での紛争

  1. 裁判で、「契約書には私名義の署名がある」が、私は「契約していない。」ということが争点になることは今までは稀でした。
  2. 今までは、自宅に出向いて対面し名刺交換してやりとりすることが多く、Aさん名義の家に住んでいるのですから、Aさんであることは確認が取れていました。

 Ⅱ.今後の注意点

  1. しかしながらリモートで手続するとなれば、「●●@kk.comは、山田花子さんである」と思っていたが、全然違う人だったということがありえます。
  2. 今までも会社の一部の人間が辞めてしまい、その者名義の署名があるが、「会社としては、その者が本当に署名したかどうかは分からない。」という紛争は珍しくありません。

 Ⅲ.対策

  1. 名刺管理ソフトがありますので、「●●@kk.com」等のドメインをチェックして、当該会社で使われているアドレスかどうかを確認する方法があります。
  2. メールでのやりとりもしっかり残しておくことが重要です。多数のメールのやりとりが残っていれば、他の事実関係から、そのメールの送り手を特定することが可能になります。
  3. 「●●@kk.comは、Aである。」「〇〇@kk.JPは、Bである。」等の確認書を旧来の契約書形式で残しておくのもよいと思われます。

電子契約と意思表示

1 電子契約と意思表示

  1. 電子契約では、契約の成立について、「●●@kk.com(の利用者)と、〇〇@kk.JP(の利用者)との間で契約が成立した。」その契約はこれですという形で、契約書がPDFで表示されます。
  2. 旧来の紙の契約書については、契約者の名前が書かれて、判子が押されます。契約当事者が、契約書に署名した事実は、その契約書どおりの契約を成立させようとする意思の存在を推察させます。
  3. これに対して、電子契約では、●●@kk.com(の利用者)が、承諾ボタンを押したことしか推察されません。
    ここで、ポイントとなるのは、●●@kk.com(の利用者)が「契約を成立させる意図で、承諾ボタンを押したこと」か推察されるシステムになっているか。裁判で容易に立証可能になっているかが問題になり得ます。

2 契約の問題

 Ⅰ.契約の成立

  1. 契約は、契約当事者の意思の合致で成立するとされています。つまりAさんが契約書通りの契約をする意思を持ち、Bさんも契約書通りの契約する意思を持っていたということです。
  2. 「契約する意思」を最も簡単に証明する技術が契約書です。旧来の紙の契約書については、契約者の名前が書かれて、判子が押されます。契約当事者が、契約書に署名した事実は、その契約書どおりの契約を成立させようとする意思の存在を推察させます。
  3. 例えば、売店で100円を渡してジュースを買うとします。契約書は取り交わしませんが、お客さんは「ジュース下さい。」と言って100円を渡します。これによって、お客さんは「ジュースを100円で買う。」との意思を示しています。
    これに対して、店員さんは、100円を受け取ってジュースを渡します。これによって、店員は「ジュースを100円で売る。」との意思を示しています。

 Ⅱ.電子契約における意思表示

  1. 電子契約では、●●@kk.com(の利用者)が、承諾ボタンを押したことは推察されます。
  2. しかし、●●@kk.com(の利用者)が「契約を成立させる意図で、承諾ボタンを押したこと」か推察されるシステムになっているか。裁判で容易に立証可能になっているか、これは大事な問題です。
  3. なお、実際のケースでは、契約書にしたがって、お金の支払いや、商品の移動がありますので、総合的には、「当事者は、契約書どおりの契約を成立させる意思を持っていた。」と認定されることも多いとは思いますが、電子契約を使うためには大事な問題です。

3 電子契約のポイント

 Ⅰ.「契約を成立させる意図で、承諾ボタンを押したこと」か推察されるシステム

  1. 電子契約では、「●●@kk.com(の利用者)が、承諾ボタンを押した。」ことまでは、容易に認定できます。
  2. 次に、●●@kk.com(の利用者)が、「契約を成立させる意図」以外で、承諾ボタンを押すことがない仕組みが必要です。
    例えば、「契約の承認ボタンを2度押させる。」「承認ボタンと拒否ボタンを用意して、承認ボタンを押したことを明確にさせる。」「契約書締結後に5分以内であれば、取消ボタンを用意する。」「契約後に、契約書をメールで送ったり、当事者の住所に送って、間違いがあればそのことを申告できるようにする。」等のシステムがあります。

 Ⅱ. Ⅰを容易に立証できる機能

  1. システムはバーションアップしてきますので、当時の承諾のプロセスを記録化し、これを再現できるシステムが必要です。動画でもよいですし、写真入りで操作手順を示すマニュアルでもよいでしょう(「契約書を承認したと表示されるには、こういう操作をしなければ、このように表示されないこと」を説明したものが必要です。)
  2. 仮に、「契約書を承認したと表示されているが、これは、押し間違いの可能性はなのか。」が争点になる可能性が考えれば、これらが簡単に閲覧できる機能は必要です。

3 最後に

  1. 電子契約は非常に便利ですし、今後流行っていくと思います。
  2. しかし、どういうリスクがあるのかはきちんと理解した上で使うことをお薦めします。